富永先生は大学院医学系研究科保健学専攻病態検査学講座に助教(テニュアトラック)として着任されました。居室は小串キャンパス保健学科研究棟の2階、実験室は同学科第二研究棟の1階です。
富永先生は、大学院時代に、「血液脳関門」と呼ばれる血液中の成分が入っていかないような仕組みになっている脳になぜ癌が転移するのか、その機序をエクソソームと呼ばれる、細胞から分泌される小胞に注目し研究をされました。このエクソソームは、細胞間の情報伝達に使われています。その結果、癌細胞に由来するエクソソームは血液脳関門の一部を破壊し、その上で脳の血管の透過性を上昇させ、脳への転移を助長することをマウスの実験で確認されました。この研究は学術誌で注目論文として取上げられるとともに、NHKのニュースでも報じられ、国際学会で受賞もされたそうです。
その後、博士研究員時代には、ある種の筋ジストロフイーの病因となるディスフェリンについて研究されました。筋肉を修復するタンパク質の一つであるディスフェリンを発現する遺伝子の変異に対して、具体的にどのような変異が病気をもたらすのか明らかにされ、病因となる変異の有無を素早くスクリーニングする新たな方法を考案されました。
これらの成果を踏まえ、山口大学着任後は、骨格筋の衰えの原因とそれを中心とした臓器(組織)間コミュニケーションのメカニズムを解明することを目指しておられます。骨格筋の衰え(筋力の低下)は「サルコペニア」と呼ばれ、単に運動機能や身体機能が低下するだけでなく、生活の質を下げるとともに、運動をしなくなる結果、他の病気をもたらす可能性も指摘されています。サルコペニアの原因の一つは加齢ですが、加齢によりなぜ骨格筋が衰えるかということはよくわかっていません。一方、加齢による骨格筋の衰えも、筋ジストロフイーとよく似た経緯をたどります。となれば、サルコペニアの原因の一つはディスフェリンに関連する遺伝子の変異によるのかもしれません。富永先生は、ディスフェリン遺伝子やその変異とサルコペニアとの関連また骨格筋を中心とした細胞間コミュニケーションメカニズムを研究することで、高齢化社会の課題の一つであるサルコペニアの予防や治療法の開発を目指しておられます。