研究紹介 渋谷助教

免疫応答における細胞内分解系の機能解明を目指して

生命現象を細胞のスケールで考えるとき、必要な物質を合成する過程が注目されがちですが、細胞内環境を正常に保つためには、役目を終えた物質を速やかに分解することも同じく重要であり、細胞および個体の健康は、適切にコントロールされた合成と分解のバランスによって成り立っていると言えます。

分解には、細胞内に不要物が溜まるのを防ぐという意味もありますが、同時に、新たな合成の原材料を生むリサイクル現象でもあります。例えば、不要なタンパク質がその構成要素であるアミノ酸に分解されると、それらのアミノ酸は無駄になるのではなく、新たなタンパク質を合成する際に使われます。このように細胞内では分解・生成の代謝サイクルが常に回っており、細胞の生存を基礎から支えています。

近年、細胞内分解系はこのような基本的な代謝機能を超えて、免疫などのより高次な細胞現象にも関わることが明らかになってきました。主要な細胞内分解系としては、ユビキチン-プロテアソーム系とオートファジーが良く知られています。ユビキチン-プロテアソーム系は、タンパク質を一個一個狙い撃ちして分解する系であり、免疫応答においては、ユビキチン-プロテアソーム系は免疫シグナルに関わるタンパク質を分解してシグナルを調節したり、ウイルスタンパク質やガンタンパク質などの抗原提示を助けることが知られています。一方、オートファジーは、細胞内に膜小胞を作って細胞内の一部を丸ごと包み込み、分解する系です。オートファジーは、ユビキチン-プロテアソーム系が分解できないような大きな構造物も取り込み、分解できる能力を持っているので、それを活かして、細胞内寄生菌などの病原体に対する防御機構としても働いていることが分かってきました。このように、細胞内分解系が免疫応答において重要な働きをしている事例が多数報告されていますが、それらの現象がどのようなメカニズムで制御されているのか不明な点も多く残ります。また、免疫応答における細胞内分解系の役割としては、まだ発見されていないものも存在すると思われます。さらには、逆に病原体がこれらの分解系を回避・利用している可能性や、免疫シグナルが分解系を制御している可能性もあります。当研究室では、上記のような可能性に注目し、免疫応答における細胞内分解系の役割を明らかにしたいと考えています。

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