私たちの体はたくさんの細胞で構成されていますが、その一つ一つの細胞のサイズ(大きさ)は大きく異なります。例えば、受精卵は一般的な皮膚などの細胞に比べ約10倍大きいです。このような細胞の「外見」とともに、細胞の「中身」も異なります。オルガネラ(細胞小器官)の代表ともいえる核を例に取ると、大きな受精卵は大きな核を、小さな皮膚の細胞は小さな核を持っており、細胞はあたかも細胞自身のサイズを感じとり、細胞のサイズと核のサイズの比率が一定になるように、核のサイズを調節しているように見えます。この細胞サイズ-核サイズ一定比率の法則性は、実は顕微鏡が作られた100年も昔から知られています。興味深いことに、細胞が癌化すると、この法則性に異常が出ることが良く知られており、細胞の「外見」に合わせて細胞の「中身」を調節する仕組みが、細胞を構築する上での基本原理として働いていることが推察されます。しかし、この基本原理の詳細な解析は発見以来約100年の間を見過ごされ、基本原理を制御する仕組みや細胞にとって、この基本原理を持つことの意味(細胞にとってどのような利点・欠点があるのか)についても理解されていないのが現状です。
私は色々な細胞の「身体測定」を通して、この未解決の問題に迫りたいと思っています。細胞の外見的な特徴である細胞自体の形やサイズ、中身の特徴であるオルガネラの形やサイズを測定し、得られた数値を比較・解析することで両者の相関関係を詳しく理解します。測定は単一の生物種、単一の細胞種に限定せず、発生時期や細胞の種類が異なる様々な細胞を用います。加えて、人為的に異なる細胞内の環境を作り出した状態での測定も行います。具体的にはアフリカツメガエルの卵を用いた無細胞再構築系を使います。この実験系の良いところは、アフリカツメガエルの卵から細胞質のみを取り出し、試験管の中で細胞質に存在するオルガネラを再構築することが出来ることです。細胞膜が無い状態で再構築を行うので、様々な細胞内の環境を外部から人為的に操作すること(例えば、物理的な障害を加える(図:細胞内の空間の大きさを変化させたときの、核サイズの成長速度への影響)、細胞質の体積を変える、特定のタンパク質の濃度を変えるなど)が可能になります。このように、様々な環境の測定データを集め解析することで、どの細胞内の環境の条件がその関係性の維持や制御に必要なのかを検証します。さらに、理解できた制御機構を基に、細胞内のオルガネラのサイズを人為的に操作させた場合、細胞のサイズや細胞が持つ機能にどのような影響が及ぶのかを解析します。このように細胞の「外見」と「中身」の双方向での関係性・制御機構の理解を目指します。