山口大学 大学研究推進機構 総合科学実験センター

全動物種の中で初めて解明された下垂体前葉で発現する遺伝子群

平成29年6月27日掲載

共同獣医学部 准教授 角川博哉

【利用施設】遺伝子実験施設

 ヒトをはじめ、動物の脳下垂体前葉は、生殖、代謝、泌乳、恒常性維持など多様な生理機能を調節する様々な重要なホルモンを分泌していることはよく知られています。動物体内には様々なホルモンを分泌する臓器がありますが、もっとも重要な機能が下垂体前葉に集積しています。また下垂体前葉には、視床下部など上位の脳から分泌された信号物質を受け止めると同時に、卵巣、肝臓、副腎、甲状腺、乳房、脂肪細胞、筋肉など多様な末梢組織からの信号物質を受け止めて、多くの信号を解析し、様々なホルモンを分泌しています。このような機構は非常に複雑であることは予想されますが、どのような遺伝子が発現しているのかその全貌は全ての動物種において未解明でした。そこで、網羅的に発現遺伝子を解析できる最新手法である次世代シーケンサーを用いて、下垂体前葉で発現する遺伝子を解明することにしました。材料は、ウシの下垂体です。ウシを用いた最初の理由は、世界中でミルクや肉などを人類に提供している重要な動物であることです。またウシの下垂体は大きさが他の動物に比べて大きく、またウシとヒトはほぼ同様の生理機構を有するというメリットがあるからです。なおこの研究では、性周期の中で最も血中エストロジェンが高く排卵直前期である発情期と、排卵された卵子が卵管で新たな生命として発生する時期である排卵後期の間での比較も行いました。その結果、次のようなことが判りました。

  1. ウシ下垂体前葉では、約12000遺伝子が発現していました。ウシのゲノムには、約22,000遺伝子が存在しますので、約60%の遺伝子が発現していることになります。
  2. 全mRNAのうち、約40%は下垂体前葉ホルモンでした。特にプロラクチンのmRNAが非常に多く、プロラクチンにはこれまでの既知の機能以外にも多くの機能がある可能性が考えられました。
  3. 発情期と排卵後期の間で比較すると、有意に発現量の異なる 約400遺伝子が発見されました。その中には、新規の受容体やバインディングプロテインも含まれていました。
  4. 図のような発情や排卵のための重要なシグナル伝達機構も解明されました。

これらの成果については、2016年9月の日本繁殖生物学会第108回大会にて、水上洋一教授らとともに成果を発表し、さらにJournal of Veterinary Medical Science誌に研究論文として掲載されました。
Pandey K, Mizukami Y, Watanabe K, Sakaguti S, Kadokawa H. Deep sequencing of the transcriptome in the anterior pituitary of heifers before and after ovulation. Journal of Veterinary Medical Science (印刷中),査読有