山口大学 大学研究推進機構 総合科学実験センター

脂質修飾タンパク質の網羅的探索とその応用 

平成29年6月27日掲載

大学院創成科学研究科(農学) 教授 内海俊彦

【利用施設】システム生物学・RI分析施設

 タンパク質の脂質修飾は、リン酸化、グリコシル化、ユビキチン化等と並んで、極めて重要な生理的機能を担う翻訳後修飾として知られている。特にタンパク質N-ミリストイル化は、主要な脂質修飾の一つであり、細胞情報伝達、タンパク質輸送、オルガネラ形成、アポトーシス、といった多様な細胞機能に直接関与するのみならず、がんや神経変成疾患、感染症といった多くの疾患と直接関連することが明らかにされているが、これまでにヒトN-ミリストイル化タンパク質の網羅的解析は成されていない。我々は、ヒト細胞内に存在するN-ミリストイル化タンパク質を網羅的に同定し、その生理的機能を明らかにし、バイオマーカー等へ応用することをめざし、システム生物学•RI分析施設において過去5年以上にわたって研究を行っている。
 実験手法としては、ヒトcDNAリソースから入手した候補タンパク質cDNAを、無細胞タンパク質合成系、あるいはヒト培養細胞中で、ラジオアイソトープ(RI)-標識ミリスチン酸存在下でタンパク質発現させ、RIの取り込みによりN-ミリストイル化を同定した。この手法を約46,000個のヒトタンパク質が収集されたタンパク質データベース UniProtに適用し解析を行った結果、最終的に171個の新規ヒトN-ミリストイル化タンパク質を同定した。これらの中には、細胞情報伝達関連タンパク質、オルガネラ形成に関わる膜タンパク質、疾患との関連が示唆されているタンパク質が多数含まれており、現在、これらのタンパク質の機能発現におけるN-ミリストイル化の役割の解析を行うとともに、バイオマーカーへの応用についても検討を行っている。 これらの研究成果は以下のような原著論文、総説に発表されている。

[1] 内海俊彦 他 化学と生物, 54, 484-492, 2016 査読有
[2] Takamitsu E. et al.PLoS One, 10, e0136360, 2015 査読有
[3] Kumar R. et al. Human Molecular Genetics, 24, 2000-2010, 2015 査読有
[4] Ezure T. et al. PLoS One, 9, e112874, 2014 査読有
[5] Moriya K. et al. PLoS One, 8, e78235, 2013 査読有