山口大学 大学研究推進機構 総合科学実験センター

植物有用物質の代謝の分子機構を紐解く

令和3年4月5日掲載

大学院創成科学研究科 助教 肥塚崇男

【利用施設】システム生物学・RI分析施設

 植物はさまざまな低分子有機化合物(二次代謝産物)を作り、その多くが天然香料や色素、食品中の機能性成分、漢方の薬用成分などとして我々の生活を支える有用物質として使われています。例えば、ポリフェノールの一種であるレスベラトロールは、抗がん作用や抗炎症作用、アンチエイジング効果があることからその生理活性が注目され、サプリメントや医薬品原料として利用されています。現存する25万種もの植物が生産する二次代謝産物は20万種を越えるとされていますが、どのようにして多様な二次代謝産物が作られているのでしょうか。我々の研究室では、二次代謝産物の生合成酵素がわずかなアミノ酸残基の違いで反応特異性が異なることを明らかにし、有用物質生産に向けた遺伝子ツールとして利用することに取組んでいます。

二次代謝産物の多くはアシル化や配糖体化、プレニル化などの修飾反応を受けて構造多様性が生み出されるわけですが、その修飾反応の一つにO-メチル基転移酵素によるメチル化があります。例えば、スパイスの香り成分であるオイゲノールがメチル化されると、フレッシュなハーブ臭へと香気特性が変わります。このような反応に関わるO-メチル基転移酵素の性質を一つでも多く明らかにできれば、酵素の精緻な反応制御機構の理解や酵素機能の進化がわかるようになります。システム生物学・RI分析施設では、ラジオアイソトープ標識されたS-アデノシルメチオニン(SAM)をメチルドナーとしてO-メチル基転移酵素の機能解析を行い、ショウブ(Acorus calamus)からレスベラトロールを特異的に認識し、メチル化する酵素の発見に成功しました[1]。レスベラトロールがメチル化されると親油性が高まり生体内に長く留まることから、生理活性が増強することが知られています。今後は、本研究で獲得した酵素遺伝子を利用した植物代謝工学、合成生物学による安定的な有用物質生産への応用も期待されています。

[1] Koeduka et al. (2019) J Biosci Bioeng, 127: 539-543