ミクロな化石や鉱物でマクロな地球史を読み解く
令和元年5月20日掲載
大学院創成科学研究科 博士後期課程2年 中川孝典
【利用施設】機器分析実験施設
私たちの研究室では、地球の歴史の解明を目指しています。対象とする時代や地質体は、約2億7千万年前の時代の秋吉台とその周辺の大陸や島々との関係性です。当時の手がかりは地球全体で見ても多くありません。その主な理由は当時の地質はプレートの沈み込みによって地球の内部へと取り込まれてしまうからです。日本も例外ではなく、約2億7千万年以前の地質は非常に限られています。しかし、山口県には3億年前から形成された秋吉台やその周辺の岩石が豊富にあり、世界的に解明されていない2億7千万年前の歴史を刻んだ岩石も残されています。私たちはそういった岩石から時代を正確に割り出すことのできる0.2mmほどの放散虫化石や、同じくらいの大きさしかない鉱物を拾い出して地球の歴史を解明しようと挑んでいます。[1]
小さな化石は高解像度で観察をしなければどういった種なのか判断することができません。そこで、機器分析実験施設にある電子顕微鏡(SEM)を使用してSEM画像という超高解像度で化石を撮影しています。SEM画像では細部の構造が観察でき、判明した形態から化石種を判定します(図1)[1]。この化石のSEM画像は地球史を語る上で最も重要視されるエビデンス(証拠)の1つとして扱われます。
私たちが扱っている化石は放散虫化石といって泥岩やチャート等の岩石から産出します。従って、放散虫化石を調べることにより対象の泥岩やチャートが形成された年代が分かります。しかし、放散虫化石が出てこない砂岩のような岩石があります。そのような場合には、年代値を化学的に求めます。砂岩から特定の鉱物(ジルコン)を取り出して、鉱物中のウランがどれだけ鉛に変換されたかを測定します。この測定の下準備としてジルコンの縞々(ゾーニング)の構造(図2)を観察する必要があります。ジルコンの縞々構造も電子顕微鏡で撮影できますが、化石とは異なるカソードルミネッセンス像(CL像)という画像を得る撮影を行います。こうして得られたCL像の画像によって、ウランと鉛の測定を行う際にレーザーを当てる場所を決めることができます。
このようにして、化石や鉱物から様々な知見を得ることでその年代を特定し、それらを根拠とした地球史を新たに描くことに成功しています。
[1] T. Nakagawa and K. Wakita, Jour. Geol. Soc. Japan, 122, 659-664, 2016.
[2] T. Muramatsu, Fission Track Newsletter, 23, 36-39, 2010.
図1
放散虫化石の電子顕微鏡像(SEM画像)。スケールはすべて0.1mm。1~7の放散虫は約2億7千万年の海洋性プランクトンである。Pseudoalbaillella属(1~4,6,7)とAlbaillella属(5)の2属がある。種名に関しては、保存状態のよい当時の放散虫化石が少ないこともあり、判然としていない。1番の化石は現在、中川が記載論文を投稿中であり、受理されれば命名されることとなる。[1]
図2
ジルコンのカソードルミネッセンス像(CL像)。鉱物のジルコンは地球内部のマグマの活動(火成活動)によって形成される。ジルコンの縞模様は火成作用の様子を示しており、図2のジルコンはおそらく単一の火成活動によって形成されたジルコンであるため、きれいな同心円状の縞模様を示している。[2]