再生・細胞治療研究センター



概要


 本研究センターは、肝臓再生療法・がん免疫細胞療法の確立および細胞培養技術の確立と事業化をめざして平成28年11月1日に設置されました。設立にあたり、山口県「再生医療研究開発拠点機能強化事業」(平成28年)による補助を受け、研究シーズの臨床開発に加えて、医療用細胞培養装置の自動化を含む細胞培養関連技術の開発・産業化や、国立大学初の大学院課程「再生医療・細胞療法のための臨床培養士育成コース」における高度専門人材育成により、次世代先進医療の実現とともに産業創出と地方創生に取り組んでいます。これまでに、企業と連携しながら科学技術振興機構JST「COI-AS」や日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん医療創生研究事業」や「革新的がん医療実用化事業」等を獲得しながら研究開発を進めています。
 特に、文部科学省補助金事業「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」(平成29年度-令和3年度)では山口県との共同申請により採択され、産学公連携にて「革新的コア医療技術に基づく潜在的アンメット・メディカル・ニーズ市場の開拓および創造」に取り組んでまいりました。最終評価では「自己完結型肝硬変再生療法」の医師主導治験(1件)やPRIME CAR-T細胞療法の臨床治験(3件)の実施や、臨床培養士の育成の実績が認められ、最高の「S」評価を受けました。 これらの取組みをさらに拡張・発展させるために、本センターは令和4年度7月に研究拠点群形成プロジェクトに採択された「高度ゲノム編集治療・創薬研究拠点」と学際融合し、研究拠点として再編されました。肝臓再生療法・がん免疫療法に加え、ゲノム配列の変異により引き起こされる遺伝性難治疾患に対して国産の高度ゲノム編集技術を用いた創薬の臨床開発に組織的な医獣連携により加速的に推進します。これにより本センターはがんや遺伝病などの難治性疾患に対して革新的治療法の開発と創薬展開に取り組む世界的な研究拠点となり、多くの若手研究者の育成による次世代シーズの育成や産学公連記による社会実装を推進してまいります。



研究内容


1.再生医療チーム

 厚生労働省より先進医療Bの認定を受け、世界初の肝臓再生療法「肝硬変症に対する自己骨髄細胞投与療法」を実施し、平成25年からは沖縄県と連携し同治療法を開始したほか、積極的に海外研究者を受け入れて人材育成に力を入れています。また、肝臓再生療法国際拠点を目指して延世大学(韓国)等に自己骨髄細胞投与療法の技術移転を実施しています。
 令和2年9月には、より進行した治療困難な非代償性肝硬変症を対象に、医師主導治験「自己完結型肝硬変再生療法」を開始しました。また、治療に必要な骨髄間葉系幹細胞を含む細胞群の培養を実現する「ロボット細胞培養システム」の高機能化に向けた研究開発を県内外企業と連携して行い、「ロボット細胞培養システム」の高機能化を実施しました。今後は間葉系幹細胞による再生医療をさらなる発展に向けて脳梗塞再生医療の研究開発に向けて産学公連携で取り組んでまいります。
  また、再生医療や細胞療法の研究開発や事業化に必要不可欠な高品質の培養細胞製剤を供給する高度医療専門人材の育成のため、平成27年度に全国初の「臨床培養士育成コース」を本学大学院医学系研究科保健学専攻(博士前期課程:2年制)に開設し、平成28年度には「医科学者育成コース」を本学大学院医学系研究科保健学専攻(博士後期課程:3年制)に開設しました。これらの取組みが評価され、平成30年度には臨床培養士養成課程が日本で初めて日本再生医療学会認定の教育機関として認定され、毎年高い臨床培養士資格の取得率を誇るとともに、再生医療関連を含めた大手製薬企業やアカデミアへ卒業生を輩出しています。


2.がん免疫細胞治療チーム

 近年、がんの3大療法である化学療法、外科的切除、放射線療法の枠を越えるような画期的な治療法として、がん免疫細胞療法に注目が高まっています。これは作用機序が異なることから従来の3大療法との併用も期待され、そのひとつにキメラ抗原受容体(chimeric antigen receptor: CAR)を遺伝子導入したT細胞療法(以下CAR-T細胞療法)があります。現在、CAR-T細胞療法は白血病などの造血器悪性腫瘍に対して、寛解率90%という著明な臨床効果を発揮すると報告されていますが、悪性腫瘍の大部分を占める固形がんに対しては未だ開発が進行中であり、対応すべき課題も多く存在しています。
 当研究センターでは、これまでに日本医療研究開発機構(AMED)「次世代がん医療創生研究事業」や「革新的がん医療実用化事業」等、また文部科学省補助金事業「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」の支援を受け、免疫細胞のがん組織への集積に重要なケモカイン(CCL19)と、免疫細胞の増殖や記憶の誘導に重要なサイトカインIL-7 を同時に産生する技術(PRIME 技術)を搭載したCAR-T 細胞(PRIME CAR-T 細胞)の研究開発を産学連携で実施しています。このPRIME CAR-T細胞は生体に備わっている免疫機能をコントロールすることで難治性固形がんに対して強力な抗がん効果とがん再発予防が動物実験にて示されました。実用化に向けて、臨床応用可能な品質レベルのがん免疫細胞の培養・製造方法の開発などを進めており、2023年7月時点で3件の人への臨床治験が実施されています。
 今後は、より多くの患者様へこの革新的治療法を届けるために、企業との連携による細胞自動培養装置の開発や、健常者由来(他家)の細胞療法の研究開発に取り組んでまいります。

3.高度ゲノム編集治療チーム

 ゲノム配列の変異により、数多くの遺伝性難治疾患が起きます。また、生活習慣、精神的ストレスなどによるエピジェネティクな変化は、がんや精神疾患などの原因となります。しかし、これらのゲノムの配列と修飾の変化を突き止め修復する根治治療は、これまで困難でした。
 ゲノム編集技術は、ゲノム配列、エピジェネティクス修飾を自在に操る基盤技術であり、究極の遺伝病治療も夢ではなくなってきました。しかし、疾患の中には、リピート病、染色体欠失など複雑なゲノム変化を原因とするものが多くあり、高度なゲノム編集技術の開発・向上が必要である状況です。また、2020年ノーベル化学賞に輝いたCRISPR/Cas9システムは、その特許料の高騰により医療展開が経済的に制限されている状況があり、日本国内でのゲノム編集治療開発も先進国中で伸び悩んでいます。
 そこで、この度、山口大学内でゲノム編集技術とその周辺技術をもった医学・生物学研究を展開している研究者が結集し、疾患を引き起こすゲノムの変化を突き止め、病態解明、創薬、ゲノム編集治療法の開発を進めて、遺伝病の根治を実現する研究集団を形成しました。さまざまな研究シーズや研究成果をベンチからベッドへシームレスに転換できるゲノム編集研究フローを確立して、ゲノム編集治療法の開発・創薬研究を牽引してまいります。


メンバー

 

  名前 所属
  高見 太郎 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  玉田 耕治 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  石原 秀行 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  宮本 達雄 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  美津島 大 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  朝霧 成挙 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  清木 誠 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  田邉 剛 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  篠田 晃 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  浅井 義之 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  杉野 法広 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  永野 浩昭 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  松山 豪泰 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  長谷川 俊史 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  木村 和博 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  松永 和人 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  白石 晃司 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  中森 雅之 山口大学大学院医学系研究科 ・ 教授
  松本 俊彦 山口大学大学院医学系研究科 ・ 講師
  柴田 健輔 山口大学大学院医学系研究科 ・ 講師
  板橋 岳志 山口大学大学院医学系研究科 ・ 講師
  加納 聖 山口大学共同獣医学部(獣医発生学) ・ 教授
  水野 拓也 山口大学共同獣医学部(獣医臨床病理学) ・ 教授
  島田 緑 山口大学共同獣医学部(獣医生化学) ・ 教授
  大濵 剛 山口大学共同獣医学部(獣医薬理学) ・ 准教授
  今井 啓之 山口大学共同獣医学部(獣医解剖学) ・ 助教
  中津井 雅彦 山口大学AIシステム医学・医療研究教育センター ・ 教授(特命)
  吉村 安寿弥 山口大学総合科学実験センター ・ 講師
  岩根 敦子 山口大学 ・ 特命教授
  山本 卓 広島大学大学院統合生命科学研究科 ・ 教授
先進科学・イノベーション研究センター ・ 客員教授
  嶋本 顕 山口東京理科大学薬学部 ・ 教授
  鈴木 啓司 長崎大学原爆後障害医学研究所 ・ 先端創薬イノベーションセンター ・ 准教授